書名の『夏の辻』は、母が幼い私へ教えた言葉なのである。「辻」は「見知らぬ所へ行く道」で「迷うと元の場所へは帰れない」といい、長くそこに佇っていてはいけない、と教えた。それが民俗的なことであることを後に知ったが、私にとっては特別な場所として残っていて、今でもふと不安な気持ちになることがある。(本書「あとがき」より)