≪戦争と戦後≫のことを書きたい、すべての日本人の問題として書きたいと、私は、十年以上願ってきた。1964年生まれの私は、戦争を経験した親に育てられた世代の、最後の最後あたりになる。私より年が下になると、今の社会の不具合やその中での個人の生きづらさを、≪戦争≫や≪それによってできた国のかたち≫と結びつけて考えることは、難しい。そして、因果がまるでわからないほうが、生きづらさとしては、よりつらいはずだ。だから≪戦争≫や≪戦後≫は、それを経験した人たちだけの問題ではない。ある民族や国家が、あれだけの喪失をたった60年や70年で忘れてしまうことは、本当はありえない。それでも忘れたようにふるまえたのは、なぜだったのか、そしてそのことは、日本と日本人に何をもたらしたのか? それらに迫るには、≪小説≫しかありえなかった。すべての同胞のために、私は書いた。