『彼方へ』を書き上げたのは1961年二月。発表は翌年十月号の「文藝」。 つまり惜しい若書きということになるのだろうが、しかしそれよりも遥かに重要な意味を持つ。この中篇小説はわたしがはじめて本式に現代社会と風俗に挑んだもので、ここには一人の小説家の基本的な聲がある。