本書の最大の特色は、哲学・思想、社会学、ジェンダー論、文化研究、メディア研究など、きわめて多岐にわたる先行研究を視野に収めながらも、友情を中軸に据えた、まとまりある研究領域の全体像を描きだしてみせたことにある。日本でも、社会学的若者研究や社会心理学、教育学を中心に、友人関係については一定の研究蓄積がある。しかし、このように広く学際的な視野をとり、かつ、それぞれの分野の研究を有機的に関連づけてひとつの研究領域としてまとめあげ、独自の問題系――特定の場所や状況に埋めこまれた地縁(地域共同体)や血縁(家族・親族)から、脱埋めこみされた「友情」的な関係性への移行は何をもたらすのか――を示してみせる試みは、未だ乏しいように思う。