武蔵野の粋人リリー・フランキーの地下水のような愛をゴクリと小さな音で飲み下ろした読後感。書かずにはいられなかったこの大きな作品の中で、私は何度も心の帰省を繰り返した。今はもう失くなった故郷の砂利道を一人で歩く時のゴム靴の底の感触をこの本は持っている。母の死を含む物語りには、悲しい場面も数多い。それらはとても痛く美しく悲しい。だが、読後の清涼感は、この本が心から誰かに捧げられたもの、亡き母へのプレゼントという点で、本質的に無邪気で明るいからなのだと思う。武蔵野の粋人リリー・フランキーは今日も母を思い、東京タワーの見えるどこかの場所で、身をひるがえしている。