故郷とは何か。起源とは、そして帰還とは……。その悉くが蜃気楼のように現出した言葉に他ならないという認識から、入澤康夫は詩を書き始めた。出雲への遡行の途上でオデュッセウスの冥府行を引いたとき、彼は日本の現代詩を一挙にアトピックな物語の網状組織へと参入せしめたばかりではない。はるかに年少の中上健次にすら、出雲に感応する熊野を語らせるだけの根拠を与えたのである。