人間とは何か。私とは何か。多くの人が机の前から動かず頭の中だけで考えることを、杉田さんは行動によって考える。スペインへ渡り列車に乗り込み「ウン、この辺だな」とばかりに飛び降りた町で暮らしはじめる、家族を巻き込んでのことであるのもすごいが、なんだかんだいいながらしっかり巻き込まれていく家族たちもすごい。 印象だけの人生論や気分だけの自然礼賛から本書はもっとも遠くにある。たった一杯ワインを一緒に飲んだだけで、初対面の男に「俺たちアミーゴだぜ」と断言されるが、杉田さんは釈然としない。「これこそスペインという国の大らかさだ」などと簡単に納得したりはしないのである。後日、納得するのだが、そこにいたるまでにページにして96ページぶんの日々が費やされている。杉田さんとともにそういう日々を生きられること、本書を読む幸福はそこに尽きる。