守安祥太郎こそは、日本最高のジャズピアニストだった。サンバ・クマーナを後手で弾きまくるという見世物的な超絶技巧で暮らしを立てながら、同時に前後ジャズ界の最先端を行くモダン派の巨匠として、たとえば若き日の渡辺貞夫の憧れの的だった。そして突然の、謎に包まれた悲劇的な死。 著者は5年にわたる綿密な調査と、呆れるほど根気のいい取材から、守安祥太郎の意外な生い立ちを、ショパンの難曲を難なく弾きこなしていた慶応普通部時代の優しい少年の面影を、さらに、伝説的な彼のステージを活き活きと浮かび上がらせる。中でも、死の遠因が、空襲時の死体処理にあったという発見は戦慄的だ。 いずれにもせよ、あの天才ジャズピアニストが伝説から蘇った。それも著者の熱気あふれる文章によって、考え得るもっとも理想的な形で。