目で読むのではなく、言葉の背後にあるくにゃくにゃした生理が、読む人の身体のなかに入りこむ。杏子の表情はわかるのに顔立ちを想像することはふしぎとできない。彼女の体臭や躰の肉付きは想像することができる。性的な交わりが深くなるごとにふくらむ腰まわりや、「薄い膜みたいに顫えて、それで生きていることを感じているの」と身をよじるときの肩や乳房、毛穴、口のにおい、書かれていないはずの光景ばかり読んでいるときに感触として迫ってくる。