太宰治の遺子、それも小説「斜陽」に描かれた愛人の子である、この少女の「手記」は、いろいろな読み方をされることであろう。この子が生まれて間もなく、太宰は死に、この子は父とまみえていないが、異常な作家の子という運命は、あるいは受難となり、あるいは救済となり、また、それを誇りとして従い、それを悩みとしてたたかう、それがこの少女の「手記」に複雑に伝えられて、人々を考えさせる。 しかし、その異常と複雑とを生き抜く少女の精神と筆致とは、むしろ素朴で健康である。すなおでみずみずしい。感受性が新鮮である。女子高校生の年齢に書かれただけに、多少早熟とは言っても、幼時からの記憶が精確に保たれて生彩を放ち、太宰治という父を離れても、出色の生い立ちの記となっている。また、ひどい生活苦の記録も若々しい心のために生の賛歌となっている。