千九百五年、血の日曜日事件。この後に書かれたリムスキー・コルサコフの名作「金鶏」は、独裁者への風刺性が強いために、生み出された直後から、抑圧を受ける運命にあった。 どうしても、この名作を自分の手で舞台にかけたい――。禁断のオペラに魅入られたロシアの人々は、地底で、奥深くちろちろと燃える火のように、この情熱をひた隠しにしたまま、いつとは知れぬ上演の日に向けて、準備を整えるのだった。そして、半世紀後の東京――。 オペラとは何か。演奏家にとっては、人生そのものである舞台。作者のひのまどかさんが、演奏家であるからこそ、迫真的に描ききられている音楽家の“業”。華やかな舞台の裏側を知るうえでも、楽しめる小説である。