だまされた人がいない、不思議な詐欺事件だった。北海道大の島村英紀元教授は共同研究をするノルウェー・ベルゲン大から海底地震計を売ってほしいと求められた。地震計は操作が難しく、開発者の島村元教授がいなければ宝の持ち腐れ。「形だけでも」という頼みをのんだが北大は外国の小切手は受け取れないと拒否。代金は個人口座に振り込まれて共同研究に使われ、地震計は島村元教授らが管理し続けた。国際共同研究ではこの程度の「困った事態」は珍しくない。しかし北大は島村元教授を業務上横領で告訴し、それが捜査段階で詐欺事件に変わる。被害者は何とベルゲン大だ。同大教授は「だまされたと思っていない」と証言したが、判決は有罪。研究は道半ばで挫折し、日本の大学に対する不信感だけが残った。