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二代目水嶋ヒロ |
二代目水嶋ヒロの「宇宙兄弟サイコー!」論 『宇宙兄弟』、サイコー! みなさん、大変です。日本は『宇宙兄弟』に支配されてしまいました。街を歩けば『宇宙兄弟』関連のポスター、CD、ムックが溢れています。もはや日本のコンテンツビジネスは『宇宙兄弟』のみで成り立っているのです。先日、実家でだらだらと『植田まさしセレクション』を読んでいると、母親から「いつまで宇宙兄弟読んでいるのよ!」と怒られてしまいました。全てのゲームがファミコンと呼ばれているように、もはや宇宙兄弟はマンガの代名詞なのです。 ご紹介が遅れました。初めまして、二代目水嶋ヒロと申します。どこにでもいるごく普通の表現者です。『Young,Alive,in Love』の帯文なのに、いきなり『宇宙兄弟』の話をし始めて戸惑っていることでしょう。最初は「深夜の渋谷でゲロを吐いている女の子は何人いるのか?」というストリートのリアルを報道する記事を書く予定でしたが、世間での『宇宙兄弟』論の低レベルさに目眩を覚え、止むに止まれず筆を執りました。西島さんに怒られて社会的に抹殺されるかもしれませんが、これはどうしても書かなくてはいけないのです(けれども、最後はちゃっかり『Young,Alive,in Love』に戻ってくるのでご安心下さい)。 『宇宙兄弟』とはタイトル通り兄弟の物語です。子どもの頃に宇宙に憧れた兄と弟は、いつしか別々の道を歩み、弟は宇宙飛行士になりますが、兄は一般企業へと就職します(そして懲戒解雇)。宇宙へと飛び立つ弟の姿を見て、兄は子どものころのピュアな気持ちを取り戻し、再び夢に立ち向かってゆくのです。 なぜ『宇宙兄弟』は人気があるのか? という分析はいくらでもあります。噂によると三浦展さん『下流社会から宇宙兄弟社会へ』という新書を用意しているらしいですし、内田樹さんは『宇宙兄弟』の名言集を出すとか、そんな話を聞いたような聞かなかったような。しかし、既存の『宇宙兄弟』論はどれもその本質を、いや、「リアル」を捉え切れていません。 これまでの宇宙兄弟論には圧倒的に足りないものがあります。 「放射能」です。 あの3・11以後、あらゆる映画や文学、評論が「ポスト3・11の世界をどう生きるべきか」というテーマを立ててきました。それは換言すれば、「僕らはどこへ逃げればいいのか?」という問いです。 私たちは劇的な政権交代や、戦後最大級の災害に遭遇しても、日本が何も変わらないことを知ってしまいました。反原発運動の行方がどこへ収束するかはわかりませんが、「たかが電気」(byエコでロハスな人)の問題ですら解決策が見つかりません。この国のシステムは脆いようでいて、あまりにもハード&タフだった。 原発事故後、関東あるいは日本を離れていった人もいます。しかし、この種の危険性は地球にいる限り、どこでだってあり得ます。地震も津波も放射能も、地球上のあらゆるところに存在するのです。 アスファルト、タイヤを擦りつけながら、暗闇走り抜けるぼくらは、どこへ逃げればいいのか? Running to Loneliness、答えのない答え探しなら、霧に閉ざされたメトロポリス彷徨(さまよ)っている。大切なあの娘の眼を、これ以上曇らせたくなくて……。そこでただひとつ、そう、ただひとつ、『宇宙兄弟』だけが、「宇宙」という広大な逃げ場所を見せたのです。地球が危険ならば、宇宙へ行くしかない。宇宙でケーキを食べるしかない。宇宙は「人類に残された最後の逃げ場所」なのです。だって、宇宙には55年体制はありませんし、原発も放射能もありません。試験も何もない。このあまりにも空っぽな空間が、それゆえ逃げ場所としてかつてないほどの強度を持ち、日本人の心をガッチリ掴んでいるのです。『宇宙兄弟』がヒットした本質はそこにあります。むしろ、それのみ。それオンリーでございます。それオンリネス。 さて、『Young,Alive,in Love』です(やっと戻ってきました)。 この漫画も3・11を強く意識した作品になっています。主人公の早川真(ハヤカワ・マコト)が危険に思う湯沸し器はあきらかに原発のメタファーとなっています。『やる気まんまん』におけるオットセイのように明白な比喩です。 危機がすぐそばにありながら、どこにも逃げることができない状況は、そのまま現代日本の縮図となっています。 「ぼくらはどこへ逃げればいいのか?」という問題意識を継承するならば、マコトは宇宙へと飛び立つしかありません。暴走寸前の湯沸し器がない世界はどこか? イヤホンを付けていても怒られない場所はどこにあるの? 女の子にいきなりゲロを吐かれないところはどこ? This is the galaxy.(それは宇宙です)or my pain, your pain, somebody’s pain…. ただし、『Young,Alive,in Love』にはイレギュラーな要素が入ってきています。 ヒロインの稗田真奈(ヒエダ・マナ)です。 彼女は「幽霊が見える」と言ってしまう中二病の不思議ちゃん。この少女は戦後70年かけて日本が培ってきたオタクカルチャーの結晶体です。 『宇宙兄弟』がウェルメイドなドラマツルギーによって解答したのに対して、『Young,Alive,in Love』はセカイ系的なスーパーフラットをぶつけることで逃げ場所を見つけだそうとしている。 西島大介はポスト3・11が抱える問題を、オタク的な想像力によって新たな地平に持っていこうとしているのです。目を瞑れば声が聞こえます。「なぁ、そろそろいこうぜ――ネクストステージの向こう側に」と語りかける彼の声が。 そして、マコトとマナは新天地のアダムとイヴとなり、重力に魂ひかれたぼくらの心を、自由のナイフで粉々にしてくれるでしょう。 果たして『宇宙兄弟』のように、明快で、夢があって、なおかつ面白い「宇宙」という逃げ場所に代わるものを、『Young,Alive,in Love』は提示できるのか? 現代日本のトップを走っている思想書『宇宙兄弟』を、『Young,Alive,in Love』が激しく追走している。チェイスしている。ポップ・カルチャーの頂上決戦は、ここで起こっているのです! この構図に気づけない評論家があまりにも多くて、孤独のミッドナイト一人頬を濡らし、やりきれない思いに切なさのエンドレスレインでございます。 私の言っていること、理解できていますか? 東浩紀さん! まさか『宇宙兄弟』を読んだことがないなんていうフェイク野郎は存在しないと思いますが、もし未読ならば今すぐ本屋に走ってください(盗んでないバイクで)。そして、一緒に『Young,Alive,in Love』も手にとってみては? さぁ、ポスト3・11の青春ラブストーリーにきみもAccess! |
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