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ISBNのない本とその帯文、またはGoogleの雑食性について
2024年現在、一般的な本はその背中にISBNと呼ばれる文字列を背負っている。ISBN――国際標準図書番号――とは、International Standard Book Numberの略称であり、その役割は年間7万点出版されるとも言われる書籍をそれぞれ識別し、管理可能にすることである。
帯文データベースにおいてもISBNの収録を基本としているのだが、現状ではデータに不備がある(残念ながら収録漏れの本の方が多いと思う)。このあたりは単に個人サイトの限界が露呈しているだけであって、それ自体は現実の出版流通事業には関わりのないことである。
ともかく前提としては、本にはISBNが付いているものだと思ってよい。が、帯文データベースをちょっと覗いてみても目に付くことだが、収録データの不備とは関係なく、ISBNが付いていない本がある。一例を挙げると、馬場佳嗣著『Guide for Reptile Lovers』、京都産業大学志学会編『戦後民主主義を考える』などだ。あるいは大佛次郎著『帰郷』や深沢七郎著『東京のプリンスたち』などにもISBNがないが、これはISBNが運用される1970年以前に出版されたものであるためだ。

前者、後者共に書誌出版データベースには収録されていないが、後者3点についてはデータを扱う枠組みを異にする国立国会図書館サーチには収蔵されている。そこではちょっと耳慣れない符合ながらも、書籍に対して「国立国会図書館請求記号/国立国会図書館書誌ID/国立国会図書館永続的識別子」が付され、きちんとアーカイブされている。
さて、ここで列記した4冊は、一般的な書誌情報であるISBNは与えられていないのだが、いずれも帯文を持っているのである。せっかくなので末尾でそれぞれ紹介しておこう。

それにつけても馬場佳嗣著『Guide for Reptile Lovers』のような本に対して、後年、我々はどうやってアクセスすればよいのだろう? なんせ記録がないのだから、手蔓がないも同然ではないか。
それでも僕がこの本を知ったのは、Googleがそのデータをストックしていたためである(とはいえGoogleブックスにはデータがない)。ググったら出てきたのだ。さすがGoogle、無いものは無い、と思わせるのと同時に、前述の専門サイトがこうした本を捉えられないのは、その専門性ゆえだろうと、一種諦念を覚えた。
専門性とはつまり、必要とする情報を操作するための方針・枠組みが定まっているということであり、この場合、情報が書誌という形で規格化されていないなら、それは専門サイトにとっては射程圏外ということである。専門サイトは『Guide for~』のような本を、その成り立ちのために取り扱うことが出来ない可能性がある。
これは構造的な問題だろう。その辺りは雑食的に何でも取り込むGoogleとは違う。Googleはデータを持っていると言っても、永続性はないし、そもそも構造化されておらず、アクセシビリティに劣る。これは目的が違うから良し悪しで語れることではない。
ここで取り上げた『Guide for~』のような、専門サイトの網からこぼれたいわば野生の本(の帯文)を、当サイトはいくつか収録しているが、きっとまだ見ぬ野生本は多いだろう。帯文データベースは、あといくつそうした本に遭遇できるだろうか。

以下、本稿で取り上げた本の帯文を紹介する(一部外部リンクはAmazonアソシエイトによる)。

推薦者 帯文 推薦書籍
海老沼剛(エンドレスゾーン) こんな爬虫類図鑑が未だかつて存在しただろうか! 爬虫類専門店「ハープタイル ラバーズ」からの嬉しい贈り物。120種類もの掲載種一つ一つに、同店サイト名物の独特な解説文がぎっしり詰まっている。種の蘊蓄から個体への偏執的な愛情、それぞれが辿ってきたヒストリー等々、単なる説明という枠に留まらない濃密な内容のオンパレードに読者は虜になるだろう。図鑑としてもエッセイ集としても楽しめる、新感覚の一冊である!
202408151 Guide for Reptile Lovers(馬場佳嗣)
八木厚昌(リミックスペポニ) ひと言で言えば10年間のセールストークの暴走をまとめた本。本来なら爬虫類店における商品たる生き物の蘊蓄や謳い文句は、好事家や趣味人の心に響き刺さることで飼育欲を掻き立てるべきものだが、本書は独特の語彙の、妄想・空想・熱狂的な使用エラーにより独り歩きし、もはやそれを超越する領域に及んでいる。文章に目を通す者の疲れた溜め息が聞こえてくるようだ。しかし、不思議なことに、その読むのも面倒なだらだらとした文章には、無暗な中毒性があり、ついつい彼の妄想ワールドへ引きずり込まれてしまうのである。
202408151 Guide for Reptile Lovers(馬場佳嗣)
荒木俊馬 大学とは,大学の経営体と教職員と全学生(同窓会員も含めて)とで構成する共同体でありまして,この共同体全員が協力して大学の平和と秩序を守って初めて『大学の自治』は成り立つのです。志学会は本学全学生の『自治会』ですから,本学コンミュニティの『大学の自治』の一環としての自治会『志学会』であることを私は信じて疑いません。
202408152 戦後民主主義を考える(京都産業大学志学会)
鈴木文史朗 大佛次郎は「赤穂浪士」を以って現われ「帰郷」を以って終わるかと思わせるほどこれは力作であり傑作である。敗戦後日本の一大ロマンであり、新時代日本の代表作であるといえよう。
202408153 帰郷(大佛次郎)
三島由紀夫 「東京のプリンスたち」は何といふ心情の美しさに充ちた作品だらう。刻刻に移りゆき、刻々に変幻する十代の少年男女の心理は、ここではそのまま音楽に化身してゐる。これは現代そのもののフーガだ。今まで誰もが求めながら、誰もが実現しなかった真の「若さ」の純粋な表現がここにある。 深沢氏が沢山の流行語をまじへながら、しかも完全に現実を遮断した文体を作ったことに敬意を表するが、同時に、この作品の最後で、重い眠りの姿で登場人物の肩にのしかかりながら「現実」が姿を現はすおそろしい効果はすばらしい。
東京のプリンスたち(深沢七郎)東京のプリンスたち(深沢七郎)