福永武彦君は生活に復帰した詩人である。ふたたびこのひとを迎へたとき、戸まどひしたのは生活のはうであったらしい。人生はその内部に秘めてゐた意味の一つを見やぶられた。それを見やぶったのは、福永君が向うから仕込んで来た目玉である。向うとはどこのことか。そこで詩人がみづから啓發することをえた世界なのだから、當人にきいてみるほかない。すなはち、ひとは身銭をきってこの本を読むほかない。この本は読者を手ぶらではかへさない。読んだあとで、今度は自分の生活を見直す目がねをあたへられるだらう。盛宴のうへにおみやげとは、ずゐぶん念の入った本である。